月下の逢瀬
昨日の夜の彼女の笑顔を、思い出していた。
それと同時に、それを見つめていた自分の悲しみや惨めさも思い出して。

幸せそうだった玲奈さんの、あの笑顔を壊したくなったのだ。
あたしが泣き崩れたように、玲奈さんも泣いてみればいい。


「……嘘、つかないでよ」


「嘘なんかじゃないよ。何なら玲奈さんの目の前で、検査薬を使おうか?」


玲奈さんがうろたえている。
その顔色が、ゆっくり青ざめていくのを、あたしは見ていた。


「本当、なの?」


震える声は、さっきまでの強さは微塵もなかった。


「妊娠、って、本当に?」


「ホントだよ」


頭の隅で、警鐘が鳴っていた。
これ以上はいけない、と。


だけど、止められなかったのだ。


玲奈さんの蒼白な顔に、あたしの中に広がる黒い感情が反応して。


「ここに、理玖の子供が確かにいるの。
育ってるんだよ?」


お腹を撫でてみせた。
途端、玲奈さんの顔から、表情が消えた。

怒りとも悲しみともつかない。
光を失いかけた瞳から、涙が一筋流れて。力なくだらりとした手は、涙を拭うこともせずに。


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