月下の逢瀬
「玲奈さん……? 玲奈さんっ!!」


あまりにも玲奈さんの様子が変わったことが、怖くなった。
呆然としたその瞳には、何も映していない。

どうしよう、と思った時には、彼女はきびすを返して調理室を飛び出していた。


「大変なこと、しちゃった……」


自分の言ったことの恐ろしさに震えた。


玲奈さんが最後にみせた表情が、やけに気になった。

あたしは、恐ろしいことをしたのではないだろうか。
一時の感情に任せて口にしたことは、
取り返しのつかない事態を引き起こすんじゃないの?


とにかく、追わなくちゃ。


あたしは調理室を出て、玲奈さんが行ってしまった方に走り出した。



玲奈さんはどこに行ったんだろう?
理玖のところ?

理玖にこのことを告げに行ったのだろうか。


妊娠したということは、理玖には言うつもりでいた。
お腹の子はあたしだけの子じゃない、理玖の子なんだから、理玖に話そう。
これからどうするか、話し合おう、と。


だけど、こんな形で知らせるつもりはなかった。


ああ、あたしは馬鹿だ。
すぐに後悔するくせに、考えなしに動いてしまって。



とにかく、理玖のところへ行こう。


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