月下の逢瀬
ケータイのアラームで目を覚ますと、隣に理玖の姿はなかった。
カーテンの僅かな隙間から、太陽の光がこぼれているのを見て、溜め息をつく。


幸せだと感じた後の、虚しさが辛い。
優しい夜を過ごすと、幸せと虚しさの落差が激しくて、心がぐらぐら揺れる。

理玖が帰っていく背中を見るのが辛くて、帰らないでと縋りたくて。
いつも無理矢理にでも眠るのは、そんな風に取り乱して理玖を困らせたくないから。

眠ってしまえば、起きるまでは幸せな気持ちでいられる。
あたしの弱い心の自己防衛。



とは言っても、起きたあとのこのやるせない気持ちまではどうしようもなくて。

裸のままで眠っていたあたしは、自分の体を見下ろして、理玖のしるしを確認する。


ひとつ、ふたつ、みっつ……。


このしるしが消えなければいい。
ずっとあたしの体に残ればいい。


理玖がいたと信じられる、理玖に求められたと信じられる、唯一の証。


消えるのならば、せめて。


「消える前に、また来て……」



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