月下の逢瀬
「ごめん……。先生ごめん、ね。あたし、どうしていいのかわかんないよ。
自分の気持ち、どうしたら殺せるの……」


どうしたら。
どうしたらあの腕の温もりを忘れられるんだろう。
触れ合える喜びを、なかったことにできるんだろう。


こんなに抱きしめられていても、体の震えが止まらない。


理玖じゃないと、止められない……。



先生が、微笑んだ。
仕方ないという風に、悲しそうに。


あたしは酷いことを先生に言っている。
あたしを探してくれて、見つけてくれた。
ずっと抱きしめてくれる腕に、
必要なのはこれじゃない、と泣いてるのだから。



身勝手なあたし。
こうして体を預けて、温もりに包まれることに落ち着きを得ているのに、
心は違う人を求めてる。


「……も、やだ。もうやだよ。人をたくさん、傷つけてるのに……。
この気持ちが、死んでしまえばいい……」


玲奈さんの命の代わりに、あたしの気持ちが消えてしまえばいいのに。


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