月下の逢瀬
「……ごめん。まだ、何も言えない」


俯いたあたしに、結衣が言った。


「あたし、真緒が心配なんだよ。だから、言ってほしい。あたしに相談してよ!
コウタにだって、絶対言わないから」


「ごめん……。ごめんね、結衣」


「真緒……」


結衣の声が掠れた。


「あたしは……友達じゃないの?」


友達だと、思ってる。
すごく嬉しいんだよ、結衣。
言いたいけど、だけど。

話せば、妊娠したことを言わなくちゃいけない。
でも、それは理玖と話しあったあとにしたい。
まだ何も話せてないのに、話せないよ。


「ごめん。でも、玲奈さんの意識が戻れば、必ず結衣に話すから」


そしたら、理玖と話せるだろうから。


「……そう。わかった」


小さくため息をついて、結衣は立ち上がった。


「あたしは、真緒にとって何の手助けにもならないってことだね?」


寂しいよ、と言った顔は怒りからか赤く染まっていて。


「違っ、結衣!」


振り返りもせず、あたしを残して行ってしまった。


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