月下の逢瀬
「でも、知らなかったんだよ……」


呟いて、窓ガラスに頭をこつりとあてた。
知らなかったから。
玲奈さんの体のこと。
だから、まさかこんな事態にまで発展するとは思わなかった。


だけど、あたしの心に玲奈さんを憎む気持ちが溢れたのは本当で。
玲奈さんが傷つけばいいと思った。
泣けばいい、と。


あたしはどうすればいいんだろう。
あの時の黒い感情を償うには、どうしたら。


かさりと花束が音をたてた。

こんなものじゃ何もならないことくらいは、わかるのに。


小高い丘の上に建つ病院に向かって、バスはゆるやかな坂道を登りだした。


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