月下の逢瀬
「あの……、久世玲奈さんの病室を知りたいんですが」


受付で聞くと、髪をぴっちりと結いあげた女の人が、ちろりとあたしを見た。
制服と花束を見て、ああ、と小さく呟いて、


「久世さんは、8階の810号室です。ナースステーションの横なので、すぐにわかると思います」


と教えてくれた。


「ありがとうございます」


ぺこりと頭を下げて、奥に見えるエレベーターの方へ向かった。


お花をナースステーションに預けて帰ろう。
あたしが見舞っても、玲奈さんは喜ぶはずがない。



それに。
病室に行けば、玲奈さんについている理玖に会ってしまうだろう。
今会って、どうするの?
眠る玲奈さんが近くにいるのに、何も話せないよ。


かと言って、理玖はこのまま待っていて、あたしに連絡をくれるのかな? とも思う。
先生は、玲奈さんが目覚めるまで、理玖は側についている、と言った。

理玖はそれまであたしに連絡をくれないつもりなの?


お腹に手をあてる。


理玖と話したい。
この子のことを、ちゃんと。


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