月下の逢瀬
早くしないと。
この子をいつまでも不確かにはしていられない。

そう思うと、無性に気持ちが焦りだした。

理玖は、玲奈さんが意識を回復すれば、連絡をきっとくれるはず。

玲奈さんは今、どんな状態なんだろう?

先生は、命の危機はないと言っていたし、大丈夫だとも言ってくれた。


でも。
でももし、玲奈さんがずっと目覚めなかったら――――?




――ダメっ!


頭をよぎった恐ろしい考えに、ぶるりと頭を振った。

そんなこと、考えちゃいけない。
これ以上、自分に嫌悪感を抱きたくない。


額にこつ、とこぶしをあてて、ため息をついた。

と、エレベーターが8階に到着した。

目の前に、ナースステーションの位置を知らせる表示がある。
それに従うように、のろのろと歩いた。


早くここから離れよう。
一人悩んでいると、嫌なことを考えてしまう。
街の雑踏に紛れていた方が、余計なことを思わないかもしれない。


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