月下の逢瀬
あんなに冷たい人たちに囲まれていたら、きっと誰かを深く愛したくなる。

誰にも与えてもらえない感情。
自分の中にある、行き場のない感情。

玲奈さんはそれを、愛情を全て理玖に注いでいたんじゃないかな。


大切にしてもらいたくて、大切にしたくて。


そう考えたら、悲しくなって。
何故だか玲奈さんのことを愛しく思えた。


意識もない状態の姉がいる病室を、素通りしていく背中。
玲奈さんは今まで、あんな悲しい背中を見続けていたのかな?


そんなのつらすぎるよ。




「もしかして……そこにいるの、真緒か?」


不意に、理玖の声がした。

ばっ、と顔をあげると、驚いた様子の理玖が立っていた。


「理玖……」


数日ぶりに会った理玖は、幾分疲れているように見えた。

あたしを見てとって、走り寄ってくる。


「具合、悪くしたのか? 顔色よくないぞ」


心配そうに眉根を寄せて、あたしの頬に手を添えた。


「大丈夫。何でもない……」


温かな手の平に、ほっとする。
にこりと笑ってみせると、理玖が小さなため息をついた。


「よかった」


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