月下の逢瀬
昨夜、理玖は中絶するように言っていた。


玲奈さんの元に行ってしまうのだから、あたしに子供を産めなんて言えるはずないのは、わかってる。
父親のいない子供を、あたしに一人で産み育てろ、なんて。





だけど。


だからといって、この子を殺してしまうの?
殺してしまえるの?


「椎名、どうした? 気分が悪くなったか?」


先生が顔をあげて、あたしの顔を覗きこんだ。


「ううん……そんなんじゃ、ないよ」


小さく首を振って、顔を逸らした。



赤ちゃんを殺してしまうことしか、あたしには選択肢はないのかな。


ない、よね。

自立してないあたしが、これからどんどん大きくなっていくお腹で、
どうやって子供を産んで育てる用意をしていけるっていうの?

両親だって、父親もいない子供を産むことを納得してくれるはずない。
今あたしが妊娠していることを知れば、すぐにでも中絶をしろって言うだろう。


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