月下の逢瀬
どれくらい、向かいあっていたのか。
厳しい顔をしていた先生が、ゆっくりと口を開いた。
「本気、なんだな?」
「うん」
気持ちを理解して欲しくて、あたしはこっくりと深く頷いた。
「それなら、俺と結婚しよう」
「……え?」
意味が分からずに、問い返した。
「椎名が産みたいのなら、産めばいい。俺が父親になる」
「な、何言ってるの!? そんなことできるわけないよ!」
驚いて、先生の手を振り払った。
いきなり、何を言うの?
「俺なら、椎名もお腹の子も幸せにしてやれる。
俺のとこに来い」
先生の顔は真剣で、あたしを見つめる瞳に嘘はなかった。
けれど、信じられなくて。
「だって、だってそんなのよくない。
先生はあたしと佐和さんを重ねてるから……」
「最初は確かに、そうだったかもしれない。佐和の面影を椎名に見つけようとしていたのかもしれない。
だけど、今は違う」
先生は首を振った。
「椎名に言われたこと、ずっと考えてた。
俺は、佐和じゃない、椎名が好きだ。
守りたい女は、椎名なんだ」
「せん、せ……」