月下の逢瀬
誰かを傷つけるとしても、理玖を想うことをやめない。
理玖が好きだと言い続ける。
そんなこと、あたしには出来なかった。


なのに、『もしも、もっと強かったら』なんて考えたって、意味がない。
『もし』『たら』『れば』、なんて、都合のいい妄想に過ぎない。



何よりも、今の幸せを当たり前のものじゃないと思って、大切にすることが大事なんだ。
あたしには過ぎた幸せなのだから。




「ママ? ママー!!」


くいくいと手を引かれて我にかえった。
無意識に立ち止まっていたらしい。


「ごめんごめん。ママ、ぼんやりしちゃってたね」


訝しそうにあたしを見上げる優月に慌てて笑いかけた。



懐かしい景色が、昔を思い起こさせるんだろうか。
三年という月日は、思い出として振り返ることのできる余裕を、与えてくれたと思っていた。
もう十分に、あたしの中で整理できていたはずなのに。
なのに、こんなにも不用意にあの時の自分を今に重ねてしまうなんて。


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