月下の逢瀬
まだ、戻って来るべきじゃなかったのかもしれない。



「さーて! ブランコ、ブランコ。
優月、まだ歩ける?」


「あるける!」


気持ちを切り替えるように、大きく伸びをした。

もう目の前には、桜が咲き乱れた公園の入口がある。
ピンクのもやの向こうに、カラフルな遊具が見えた。


「よし、がんばろう。滑り台もあるよ」


「すべりだーい」


ぴょんぴょんと跳ねる優月と、桜のトンネルのような公園の入口をくぐった。



広い公園は、この辺りの桜の名所でもある。
レジャーシートを広げて、花見を楽しんでいる人たちがちらほらといた。
遠くに屋台の姿を見てとって、優月が嬉しそうに指差す。


「おまつりー! ママおまつりー」


「ホントだ。お祭りみたいだねー」


ブランコにのせて揺らしても、ゾウの形の滑り台を滑っていても、優月は盛り上がる花見の様子を興味津々に眺めていた。

楽しげな雰囲気が、わくわくするのだろう。


「優月、公園をぐるっとお散歩してみる?」


「うんっ」


ゾウの背中から、気もそぞろに様子を窺う優月に言うと、にぱ、と笑った。


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