月下の逢瀬
会うはずがない、と思っていた。
どんなに家が近くても、そんなに簡単に会うものでもない、と。


それに、ここに滞在するのは二泊。その内の一泊を済ませ、明日には福岡に帰る。

残り少ない時間で、都合よく出会うなんて有り得ないことだと思っていたのに。


なのに、何で。



「ママー。あっちー」


「え? ああ、うん。行こう」


この場所から早く離れなきゃ。
理玖に見つからないように。


「あっれぇー!? もしかして、椎名ぁーっ?」


優月を抱き上げたところで、大きな声で呼ばれた。


「なあっ!? 椎名だよな?
オレだよ! 日薙っ!」


恐る恐る声のした方を見ると、懐かしい顔が大学生グループから走り寄ってくるところだった。


「あ……、久しぶり、日薙くん」


「うっわ。何年ぶりだっけ?
椎名、成人式もいなかったもんなー」


頬を赤らめている日薙くんは、ずいぶん酔っ払っているようだった。
やけに大きな声で笑う。
と、あたしの首にまきつくようにしがみついた優月に気付いた。


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