月下の逢瀬
「は? もしかしてコレ、椎名の子供!?」


「え、あ、うん」


どうしよう、早く離れたい。
そわそわと短く答えたあたしに構わずに、日薙くんは楽しげに続ける。


「マジかよー。結婚してんだよな? 同級生じゃ一番乗りじゃねー?」


「あー。どうなんだろう、ね。あの、あたしもう」


「おーい! 理玖、来いよ! お前、椎名が結婚してたって知ってたか?」


「ちょっ!? 日薙くんっ!」


止める間もなく、振り向き様に呼んだ。


ヤバい。会ってはいけない。
気持ちは焦るのに、足が動かない。


日薙くんの肩越しに、理玖がゆっくりと立ち上がるのが、見えた。


立ち去らなくちゃ。すぐに。
頭ではそう思っているのに、
目すら、逸らせない。
まるで金縛りにあったように。


ダメ。


拒絶しようと目を閉じようとした時。
ふ、と寄越した視線が、あたしを捉えた。

瞬間。
三年前に終わらせたはずの感情が噴き出した。
もう枯れたはずの、とうの昔に散らせた想いが、鮮やかに広がる。
見終えたはずの桜が、今こうして咲き乱れているように。


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