月下の逢瀬
だけど、言えない。
そんなことを口にはできない。


三年の月日は、あたしたちを昔よりももっと引き離している。

あたしには大切にすべき家族が。
理玖には大切にすべき伴侶がいる。
もう二度と裏切ることのできない、応えるべき愛情が。

それに、会社、家族、そんなもの全てが、あたしたちの距離を離してる。


周りを放ってでも身勝手にお互いを望むなんてことは、もうできない。
三年前に、既にその機会を放棄した。

あたしたちは、太陽の下で寄り添える未来を、永遠に失っているんだ。




「理玖は……玲奈さんを大切にしなきゃ」


「ああ」


「そんなこと、言っちゃだめだよ」


「ああ。もう、一生口にしない」


「玲奈さんを幸せにして。共に幸せになって」


「ああ」


「あたしも、そうする」


「ああ」


瞳が逸らせない。
あたしの意思とは違うことばかりが、口をついて出る。


けれど、それでいいんだ。
それが、あたしの選んだ道なんだ。


あたしは、太陽の下で愛してくれる人に応えると、裏切らないと決めたのだ。
晃貴の心に、優しさにずっと応えていくと。


だけど。
だけどやっぱり理玖のことはずっと……。





言えない気持ちを飲み込んで、にこりと笑った。



「じゃあ、本当にさよなら」


「さよなら」



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