月下の逢瀬
「そろそろ、店出ようか」


あたしのカップが空になったのを見て、先生が立ち上がった。


「家まで送るよ。今日車だから」


「え? いいですよ、そんな。それに支払い!」


伝票を持ってさっさと歩きだす先生を慌てて追う。
支払いを終えた先生は、あたしににこりと笑いかけた。


「生徒をナンパした口止めに奢らせて。そのついでに、送らせて」


「あー……、と。ごちそうさまでした」


「はい」


にこにことした先生は、あたしの彼氏の話なんてもう気にしてないようだった。

まあ、生徒の恋愛話なんて興味ないよね。

あたし、気にしすぎかな。
気にしすぎだよね、と首をぷるぷると振った。

あんまり考えないようにしよう。



「椎名? 行くよー」


いつの間にかずいぶん先を歩いていた先生が、振り返って足を止めていた。


「あ、はいっ」


あたしはぱたぱたとその姿に向かって走った。


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