月下の逢瀬
先生の車は大きな四駆だった。

意外だな、先生は何となくスマートな車に乗ってそうなのに、と考えていると、先生が助手席のドアを開けてくれた。


「どうぞ」


「じゃ、失礼します」


車の中は結構綺麗で、でも後部座席には何冊も本が置かれていた。


「わ。本がこんなとこにもある」


「部屋もすごいよ。床が抜けるかもと心配してるくらい」


先生が笑いながら言う。


「今度読みたい本があったら言ってみて。もしかしたら持ってるかも」


「ええと。じゃあとりあえず、あの推理小説を」


「はいはい。あ、じゃあちょっと家に寄っていい? すぐ貸せるし」


車を走らせ出した先生があっさり言った言葉に慌てた。


「そんな、いいですよ。明日とかで」


「冊数があるから、持って帰るの大変だよ?」


先生は前を向いたまま言う。


「や、でも悪いですよ」


「いいよ、気にしないで。それとも早く帰りたい?」


「いや、そういうことじゃないんですけど。悪いから、遠慮します」


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