月下の逢瀬
秋の様相の公園は、家族連れが多いようだった。


「動物園行く?」


「行きたいです」


赤く染まった並木道を並んで歩く。
先生はあたしに合わせてくれているのか、緩やかな足取り。


「先生、彼女いないんですか? こんなところは、デートでくるものでしょう」


「いたら本屋に一人でいないな」


「なる程」


自分で言っておいて、はたと気付く。
そう言えば、こうやって男の人とこんな場所に来るのは初めてだ。

初めて付き合ったあの人とは、こういった時間は過ごすことなく別れたし、
理玖となんて昼間に会うことすらない。


あたし、ずいぶん経験が薄いんだな。


「まあ、今日は椎名がお相手してくれてるし。臨時彼女?」


「あたしはただの生徒です、先生」


「傷つくことをさらりと。フラれた気分だな」


先生はおどけたように言って、あたしの頭をぽんと叩いた。


「動物園なんて久しぶりだな。とりあえず楽しむか」


「はい」


気持ちのいい天気に、明るい公園。
見えてきた動物園の入り口に、あたしは浮き立つ気持ちで走り寄った。



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