月下の逢瀬
「――楽しかったです。ありがとうございました」


暗くなりだした道を走る、帰りの車の中。運転する先生の横顔に頭を下げた。


「いえいえ。俺も楽しかった。ありがとう。
で、非常に申し訳ないけど、一本だけいい?」


先生はタバコの箱を出して言った。


「いいですよ。って先生、ずっと我慢してたんじゃないですか?」


先生と会ってから半日が経とうとしていたけど、一回も吸わなかったから、気づかなかった。


「いや、元々そんなに吸わないから」


信号で車が止まった隙に、素早く火を点ける。


「何か、気をつかわせちゃってごめんなさい」


「いいよ。誘ったのは俺だし」


笑いながら言い、ふう、と息を吐く。少し開けた窓、その隙間から紫煙は流れていった。


「今日椎名に会えてよかった」


「あたしも、楽しかったから会えてよかったです」


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