月下の逢瀬
もう何年も行っていなかった動物園は、思いのほか楽しかった。

エサをあげられる動物全てにエサをあげたし、ふれあいコーナーではウサギを抱っこしたし、カンガルーにも触った。

先生はにこにこしながらその様子を見るだけだったのに、

『何かお父さんみたいですね』

と言うと、ムキになってウサギを抱っこして遊びだした。
それはまるで子どもみたいで、くすくす笑ってしまった。
学校で見る姿は、スーツが似合う、大人の男の人なのに。


「……あ、先生。その先を右です」


「はいはい」


タバコをくわえたまま、先生は相づちをうつ。
その横顔を見ると、やっぱり大人の男の人のものだった。
口を開くと、くだけた感じに変わるから、幼いように見えたのかな、と首を傾げた。

こういうギャップも、モテる要素なんだよね。


「ん? 何顔見てるの」


「や、先生ってモテそうなのに、何で彼女いないのかなって」


「さてね。不思議?」


「はい」


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