月下の逢瀬
「俺は、椎名が彼氏がいないって言うのが不思議」


「え? あたしは別に不思議じゃ……」


「キスマークつけるような関係の奴は、彼氏と呼ばないの?」


どくん、と胸が鳴った。


「この間、ボタン外した時に見たんだ。
あ、息苦しそうだったから、外しただけだから誤解しないように。
で、その時にさ、ちょっと」


先生は前を向いたまま、淡々と言う。


「あんなにつけられておいて、彼氏じゃない?」


「……あ、の……」


声が震えた。
何て言えばいい? 上手い言い訳は?


「椎名の性格じゃ、援交もないな。
彼氏と呼べない男って、どんな関係?」


さっきまで優しかった先生の声が、冷たく感じた。


「……せ、先生には関係、ないです」


絞り出すように、途切れながら言った。

理玖とのことは言えない。言わない。


「関係ない、か。うん、そうだな」


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