月下の逢瀬
先生はそこでぷつりと話を切った。
タバコを車内の灰皿に押し付けるように消した後は、あたしに家への道筋を聞く以外は何も言わない。

あたしも短く答えながら、膝に置いた自分のこぶしをただ見つめていた。ぎゅっと握ったその手のひらは、じっとりと汗をかいていた。

心臓がばくばく高鳴っている。
早く、この場所から離れたい……。


「――あの交差点を左?」


「え!? あ、あのコンビニの駐車場でいいです」


顔をあげると、家の近くのコンビニが見えた。
コンビニ横の道路に入れば、すぐに家がある。


「そう? じゃあ」


先生は駐車場の一番はしに車を止めた。
店の陰になるそこは薄暗くて、あの賑やかしい光も入ってこない。


「ありがとうございました。じゃあ、失礼しま……」


慌ただしく挨拶をして、ドアに手をかけようとしたところで、肩を掴まれた。


「あ、の。先生……?」


先生に背中を向けたまま聞く。


「こっち向いて、椎名」


低い声は、さっきまでの声音と違った。
優しい学校の先生の声じゃない。


「椎名」


ぐ、と手に力が込められ、無理やり体を向けられる。


「なに……っん、……ふ……」


いきなり、唇を塞がれた。


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