月下の逢瀬
「やだっ!」


首をひねって顔をそらす。


「先生、あたしのことなんてよく知らないじゃない! 気になるとか意味わかんないっ」


「知ったから、興味がわいたんだよ」


先生の唇が再び、あたしの体に触れた。
キスマークの位置?
一つ一つを、唇でたどっていく。


「真面目で控えめな生徒。地味な子がさ、首もとにたくさんのキスマークをつけてる。
寝不足だったのはそのせいだった?

気になってきてね」


「せんせ……離して」


腕を握る手には力が込められていて、暴れると痛む。


「そしたら、隠すようにしていた色気とか、瞳の奥の光とか、不思議なくらい惹かれるんだ。どうして今まで気づかなかったのかと思うくらい。

どんな男が、椎名をこんな風にした?」


ちく……。
ふいの痛みに、痕が一つ増えたことを知る。
同時にまた一つ、理玖の痕が消えた。

理玖の顔が浮かぶ。


「やだ……っ。理玖!」


気付けば、そう叫んでいた。


「りく……?」


胸元にあった先生の顔が、上がった。


「りく……、理玖? 宮本理玖?」


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