月下の逢瀬
意外、と一言で簡単に済まないほど、玲奈さんの隠されていた性格はあたしの心を動揺させた。

したたかな性格とは、玲奈さんのような人を指すのだろうと思った。


そして、理解した。
玲奈さんは確かに理玖と繋がる怪我を負っているのだと。
玲奈さんの傷の程度は分からないけれど、理玖と付き合うきっかけくらいにはなったのだと。


『キレイな自分のままで好きなものを手に入れる』


玲奈さんは自分の傷と引き換えに、理玖を手に入れたの?


『羨ましい……』


ぽつ、と口からついて出た言葉。
それは偽らざる真実の気持ち。


いつも、隣であたしを守ってくれていた理玖。
お兄ちゃんのように優しくて、力強い理玖。
当たり前だと思っていた存在は、成長していくにつれ、どんどん遠ざかって。
そして、あたしではない人を守るようになってしまった。


ごく普通にあった幸福を、再び引き寄せる力があたしにあったなら。
引き寄せようという前進の気持ちがもっとあったなら。

そしたら、玲奈さんのように理玖を手に入れられたのかな。
理玖のそばという地位に、いられたのかな。


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