月下の逢瀬
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そして、文化祭当日はあっと言う間にやってきた。


「わー。真緒ってば、浴衣すごく似合う! 黒なんて何だか大人ぁー」


「……そ、うかな? 結衣の方が、断然いいのに」


着付けを終えた結衣と向かい合う。赤地に、淡いピンクと白の朝顔が一面に描かれた浴衣を着た結衣は、辺りをパッと明るくさせるかのようだった。
色白で華やかな顔つきの結衣によく似合っている。

その点、と見下ろした自分の浴衣は、黒地に白と銀の萩模様。
こんな柄しか似合わなかったとは言え、もう少し鮮やかなものを探せば、あたしも結衣のように可愛くなっただろうか。

見渡すと、みんなそれぞれに可愛らしくて綺麗で、色とりどりの季節外れの金魚が、ひらひらと舞っているかのようだった。


「失敗したかも。あたしも、明るい柄がよかったかなあ」


「そんなことないよ! あたしなんて大人っぽい柄は似合わなくて、泣く泣く諦めたんだから。
似合うんだったら、真緒みたいな柄にチャレンジしてるよっ」


結衣はあたしの浴衣の袖に手を触れ、羨ましくなっちゃう、と笑った。


「あたしは、結衣みたいな可愛いやつに憧れるけどな」


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