感情少年少女
私はバッと振り返る。
と、そこにいたのは背が高く、体格のいい男の人だった。
この人からあんなに優しそうな声が…?
でも人は見かけによらずとも言うわよね。
私は口を開いた。
「この辺りに来たのは初めてで道に迷ってしまったの」
私がそう言うと男はスっと指を指した。
「ここをずっと真っ直ぐ行けばそのうち曲がり角が見えてくる。その曲がり角を左に曲がれば駅がある」
男はそう言ってその場から去ろうとした。
私は口を開いた。
「あの、ありがとう!」
「どういたしまして」
愛想が悪そうに見えるがそれでもほんの少しでも話せばわかる。
彼は…とても心優しい人だと。
きっと彼は気づいていただろう。
私が本当は駅がどこにあるのかわかっていたことを。
どうして私が道に迷ったふりをするのかは──。
「龍士さーん!」
「兄貴、お疲れ様です!」
…龍士さん、って言うんだな。

──運命の人に出会うため。母親に敷かれたレールを外れて運命の人に出会うの。
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