【番外編】副社長の一目惚れフィアンセ ~詩織の物語~
side 直斗
詩織が車にはねられて亡くなったのは、12月の東京には珍しく、はらはらと雪が舞った日の夜だった。
『また明日ね』
『うん、じゃあな』
それが詩織との最期の会話だった。
線香の匂い。
すすり泣く声。
花に囲まれた遺影。
俺は葬儀場の隅で、ひとり切り離されたような感覚で、ただ立ちすくんでいた。
何人かの友人に声をかけられた気がするけど、ちゃんと受け答えできていたかわからない。
花を手向けたとき、棺の中で安らかに眠る詩織を見た。
交通事故にもかかわらず、顔には傷ひとつなくきれいなまま。
けれど、それはもう俺の知っている詩織ではなかった。
二度と目を覚ますことはない。
笑いかけてはくれない。
俺が描く未来にはいつも詩織がいたのに。
彼女がいない未来に、一体何の意味があるというんだろう。
俺に生きる理由なんてあるんだろうか。
もうすべてがどうでもいいことのように思えた。