【番外編】副社長の一目惚れフィアンセ ~詩織の物語~
「ナオ!」
頭の中に鮮明に幼い声が響き、振り返ると明里が泣きながら駆けてきた。
「ごめんなさい!」
目と鼻を真っ赤にしながら、明里は開口一番そう言った。
「ごめんなさい!
私がナオをお姉ちゃんから『りゃくだつ』するなんて言ったから、神様がお姉ちゃんを連れてっちゃったの。
お姉ちゃんは悪くないのに、ナオと幸せになるはずだったのに…
私がお姉ちゃんの代わりに死ねばよかった…っ」
しゃくりあげて泣く明里を前に、俺はやっと現実に戻った気がした。
バカか俺は。
自分だけが苦しんでいるような気になって。
こんなに小さな子が、こんなに心を痛めて、自分が死ねばよかったなんて言って泣いているのに。
俺よりもずっとずっとつらい思いをしているのに。
肩を震わす明里の目線までしゃがみこんだ。
「明里は何も悪くないよ。
代わりに死ねばよかったなんて言うな」
「…っだって…っ私が『りゃくだつ』なんて言わなかったら…っ」
大好きな姉がいなくなった悲しみは、簡単に癒えることはないだろう。
けれど、やさしいこの子が自分を責める気持ちだけは、なんとか消してやれないだろうか。
詩織、不思議な力があるって言っていたよな。
魔法を持っているんだって言っていたよな。
それを俺に貸してくれないか。
代わりに、俺は詩織が悲しむようなことはしないと誓うから。
ちゃんと前を向いて生きていくと約束するから。