【番外編】副社長の一目惚れフィアンセ ~詩織の物語~



学校からの帰り道。

私の唐突な言葉に、直斗は隣できょとんとする。


「なぞなぞ?」

「うーん、まあそんな感じかな」


直斗は「んー」と唸りながらどこかを見つめた。

しばらくして。


「ヒントちょうだい」


子どもみたいに目を輝かせながら顔を向けた直斗に、密かに鼓動が跳ねる。

まいったな。

付き合って2年半も経つのに、私の心臓は慣れるということを知らない。


「じゅうぶんヒントらしいこと言ってるよ。
こんな長いなぞなぞないでしょ」

「え?でも全然わからない」


と言いながら、直斗は宙を見上げてまだ考えている様子。


空はいつの間にか鮮やかな青を失って、少しずつ淡い水色に変わってきている。

頬をさす冷たい風。

宙に消える白い息。

ブレザーの下にラルフローレンのベスト。

右手には手袋。

左手には彼の温もり。

期末テストが終わり、あと3週間もすれば年越しだ。

―― 私の命の期限も、もう残り僅か。


「…直斗、そんなに真剣に考えなくていいよ」

「じゃあ答えはなんなの?」

「内緒」


直斗は納得がいかない顔をして首を傾げ、私はいたずらにふふっと笑ってみせる。

知らなくていい。

言ったところで何も変わらない。



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