【番外編】副社長の一目惚れフィアンセ ~詩織の物語~
右手で明里の両眼を覆い、祈るように口にした。
「……俺のことは全部忘れて。
明里は詩織の分まで生きて」
ゆっくりと手を離すと、明里はもう取り乱した様子はなく、真っ赤な目をしたままぼんやりと俺を見つめていた。
きっともう大丈夫。
明里の表情を見てなんとなくそう思った。
魔法が解ける前に、俺は明里の前から姿を消そう。
「……バイバイ。元気でな」
背を向けて葬儀場を出た。
溢れ出した涙は止まらず、人目も憚らず嗚咽を漏らしながら歩いた。
立ち止まってはいけない。
前を見て歩いていかなければならない。
明里にかけた魔法がちゃんと効くように。
明里が自分を責めずに済むように。
今にも折れそうな俺の心を支えるのは、そんな願いだけだった。