【番外編】副社長の一目惚れフィアンセ ~詩織の物語~
ずいぶんと長い月日が流れた。
苗字が変わり、生活が一変し、想像もしていなかった重い肩書きを突然背負わされ、1年が一瞬で過ぎてしまうような目まぐるしい生活が続いた。
忙しない日々の、ほんの一コマ。
たまたまぶつかって一瞬顔を見ただけの女性に一目ぼれした。
『あの、昨日は申し訳ありませんでした!
ぶつかってしまったのに、謝罪もなくとても失礼なことをっ
処分はいくらでも受けます!減給処分でもなんでも…』
『君の名前と所属は?』
『えっと…
総務部総務課福利厚生係、高野明里と申します』
"あかり"
彼女は確かにそう名乗った。
けれど、彼女は俺のことを全く覚えていないようだった。
魔法はちゃんと効いていたのだ。
そして、詩織の日記帳の最後のページに書いてあったメッセージの意味がやっと分かった気がした。
『P.S.未来を予測する力なんて、私にはないけど…
直斗の愛する人が、生涯を共にする人が、私にはなんとなくわかる気がするの。
もしも当たっていたら、その時は2人でこのページを読み返してほしいな。
一番幸せになってほしい2人へ。愛を込めて。
詩織』
――きっとこれは、詩織が起こした奇跡。
詩織。
詩織の力は、何の役にも立たない力じゃなかったよ。
詩織の分まで、生涯明里を幸せにすると誓うから。
遠いどこかから、ずっと見守っていて。