【番外編】副社長の一目惚れフィアンセ ~詩織の物語~



彼――吉井直斗(よしいなおと)と出会ったのは高校1年の春だった。

同じクラスになった直斗は、その整ったルックスで瞬く間に女子を虜にした。

けれど、本人は熱い視線を受けている自覚があるのかないのか、女子とフレンドリーに話すわけではない。

いつもどこかぼんやりしていて、休み時間は大抵寝ている。

話しかけられてもほとんど返事らしい返事をせず、すぐにまた机に突っ伏してしまう。

熟睡しているのか単に寝たふりをしているのか、全く反応を示さないときすらある。

それは女子に限らず男子に対しても同じだったけれど、放課後の部活にはちゃんと参加しているらしく、決して友達が少ないわけではなさそうだった。


「ねーねー詩織、吉井くんが珍しく起きてる」


前後の席でお昼を食べながら、涼香が声を潜めつつ興奮気味に言う。

窓際一番後ろの席に目をやると、彼は何人かの男子と一緒にお弁当を食べていた。


「お昼なんだから起きてて当然でしょ。
部活してるんだったらご飯食べなきゃもたないよ」

「そうだけどさあ。
詩織はつれないなあ」

「涼香と違ってイケメンとか興味ないし。
てか吉井くんって無愛想じゃん」

「無愛想じゃなくてクールなの!
そこがまたいいんだよ」


イケメンというのはそれだけでたくさんの恩恵を受けている。

これが地味な男の子だったら『無愛想=クール』という図式にはならないだろう。

暗いとかコミュ障とか、そういうネガティブな印象になると思う。

世知辛い世の中だ。




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