突然現れた魔女っ子が帰ってくれません。
「あなたの杖、もう使い物にならなくなってるって……大分前に花沢さんに伝言を託したんだけど。聞いてない?」

 教師が困ったような笑みを浮かべる。ジュリの表情が堅くなり、ピクピクと口元が引きつった。

「キリエに、ですか。いいえ、全く聞いてません」

 キリエ、と聞いて確かジュリのライバルだったなと思い出す。

「そう。それじゃあ今回の課題はどれもこれも効果が得られなかったでしょう? 次の課題も杖が必要になるから新調しておいてね?」

「はい」

 戸口で失礼しました、と一礼してから元きた廊下を進む。

 さっき聞いた教師との会話から察するに、ジュリの魔法がことごとく失敗したのは杖が原因らしかった。

 そう思うともう笑うしかない。ジュリは俺に魔法を掛ける際、いつもあの杖を振っていたのだから。

「けど良かったじゃん?」

 俺は彼女を励ます気持ちで頭にポンと手を置いた。

「杖がどうであれ、進級できないわけじゃなさそうだし。またチャンスもらえたんだろ?」

「…っはい」

 ジュリは俯いた顔を上げ、涙で若干潤んだ瞳を細めた。

「キラさんのおかげです」

「……は? え、なんで俺?」

「いいから。キラさんのおかげなんです」
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