突然現れた魔女っ子が帰ってくれません。
 俺は目を丸くし、口をポカンと開けた。説明のつかない現象に息を呑んでいた。

 本当に魔女なんだな、と思うと幾らか心許(こころもと)ない気持ちになる。

「それでは第1の魔法から」と言うと、ジュリは杖を振った。低音ボイスで呪文を唱えられ、俺は無意識に奥歯を噛み締める。

 結果から言うと何も起こらなかった。

「やっぱ駄目かぁ」とジュリは肩を落とし、「次は第2の魔法」と続けてまた杖を振る。

 それからおよそ1時間が経過した。

「次は、えーと……第38の魔法」

 宅配便で届けられた本は、彼女で言うところの教科書らしく、パラパラと目ぼしい内容を開いては俺に杖を向けてくる。

「また失敗かぁ」

 駄目が増えるたびにジュリは落ち込み、俺のテンションは下がった。

 あのさ、と胡座(あぐら)をかきながらさっきから思っていた事を告げた。

「ジュリってもしかして……落ちこぼれ?」

 ジュリはカッと目を剥き、青ざめた顔で口を開けた。

 正解、とその表情(かお)に書いてあるような気がする。

 まずい、地雷だったか。

 彼女から目を逸らして肩をすくめる。

「最近何故か調子が悪くてヤバいんですよぉ、キラさん! スランプですっ」

 ジュリは眉を下げ、涙ながらに訴えた。

「ライバルのキリエはさっさと進級したって聞いたし。この課題落としちゃうとマジで留年なんです。
 一人前の魔女になるのが私の目標なのにぃ〜」

「そうかそうか、ジュリも大変なんだな」

 結局、急に泣き出す彼女を宥める羽目になってしまった。
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