たった一人、君に恋して


「わかった。だけど、どうして私じゃなくてその人のことが好きになったの?」

 
 私のことが好きじゃなくなったことに理由なんてないだろう。

 ただ、私よりその人が魅力的だっただけ。

 そう、頭では理解しているのにどうしても聞かずにはいられない。


「・・・・・・なんでだろ。わからない。でも、その子は俺がいないとだめだから。実桜は、一人でも大丈夫でしょ?」


「・・・・・・」


 ・・・・・・またか。

 いつも別れ際には同じようなことを言われる。

 そんなことない。

 私もあなたがいないと毎日が楽しくないの。

 一人でもそれなりには生きていけるけど、あなたがいた方が何倍も楽しいの。


 そう言いたい気持ちはあったが、心の中で押し殺した。


「そっか。わかった。今までありがとう。・・・・・・じゃあ、ね」


「うん。・・・・・・ごめんね」


 ああ、『ありがとう』とは言ってくれないんだね。


 遠ざかっていく背中を見て、私は涙を流した。


 いつもと同じ、ただの失恋。


 自分から相手の気持ちが冷めていく時に感じる、胸がギュッと締め付けられて頭が真っ白になるこの感覚。


 もう、本当に、二度と味わいたくない。


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