愛よりもお金が大事。
◇
「急に誘ってごめんね?」
そう、私に謝るのは社長で。
「いえいえ!
とんでもないです!これも仕事なので!」
相手がわが社のトップの岡崎一枝(おかざきひとえ)社長で、私はかなり緊張している。
今現在、社用車の後部席で岡崎社長と並んで座り、運転しているのは岡崎社長の秘書の高田君。
実は、歳は高田君の方が1つ上だけど、彼も同期だったりする。
「あけぼし商事の浅村会長からのお誘い…、まあ、接待なんだけど。
俺もそうだけど、あけぼし商事の会長も秘書が男で。
女っ気ゼロなのもあれだから、営業部一の美人の夏村さんに声を掛けさせてもらった。
ごめんね、急で。金曜日の夜なのに予定とかなかった?」
「いえいえ。
予定なんてないです。
あけぼし商事は、今私も担当取引先なので、今回の接待はありがたいです」
あけぼし商事との台湾産カジキマグロの商談。
あの後、少し時間が掛かったが、こちらの望み通り1キロ千円を切る値段で契約が成立した。
そして、なんとなく七種さんとは、気まずい。
「そういえば、夏村さんは冬野君と仲良いよね?」
岡崎社長からのその問い掛けに、ドキッとする。
「あ、そういえば、岡崎社長、冬野とはゲーム仲間なんですよね?」
「そうそう。オンラインゲームで同じチーム。
昨日の夜もけっこう遅く迄一緒にプレイしてたんだけどね。
今夜も冬野君に誘われてるんだけど、冬野君金曜日なのに暇なのかな?」
「さぁ、どうでしょうね」
冬野はどうか知らないけど、私は…。
冬野とは金曜日の夜によく会っていた。
だからか、先週もそうだけど、冬野と会わないと金曜日の夜は暇に感じる。
冬野と関係を持つ前は、金曜日の夜に私は何をしていたのだろうか…。