愛よりもお金が大事。
私と冬野は結婚後。
時々、外で夕飯を食べて帰る。


それは、やはり金曜日の夜が多い。



「夏村…じゃなくて、花梨待った?」


「ううん。透」


最近、やっと私達は下の名前で呼び合うようになった。


今夜行くのは、あの時と同じグレースホテル内の居酒屋。
前回と違うのは、待ち合わせは現地集合ではなく、グレースホテルの最寄り駅。


「あのさ、花梨また勝負しない?」


「勝負?」


「ここから、グレースホテル迄競争」


「は?そんなの絶対透が勝つじゃない」


私が今日、ヒールなのもそうだけど。
この人が高校時代、陸上の短距離でインターハイに出た事があるのだと、栗原さんが言っていた。


「まあね」


「ちなみに、透が勝ったら?」


ただかけっこをしよう、って事ではないのだろう。
いつかのように、勝負しようとか言うのだから。


「もし俺が勝ったら…。
グレースホテルで今夜部屋取ってる…」


そう、照れ臭そうに言うからなんだか笑ってしまう。
私達もう結婚迄してるのに、そうやって照れている彼に。



やっぱり、私はこの人が大好きだ。


「いいよ。その勝負受けてたっても」





(終わり)

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