孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 恐怖すら覚える彼の迫力に藤堂さんは青ざめ、もうなにも反論しなかった。

 奏飛さんは本当に手加減しない人だ。皆が冷たい人だと言うのがわかった気がする。でも、今のは全部私のため。それは正直嬉しいと感じてしまった。

 彼は呆気に取られたままの私に手を差し出す。

「帰ろう、深春」
「は、はい……っ」

 慌てて手を重ね、絶句している藤堂さんにぺこりと頭を下げて歩き出した。奏飛さんはこちらを見ていたお義父様たちに歩み寄り、「俺たちは先に失礼します」とだけ告げて会場を出ていく。

 迎えの車に乗ってふたりになると、どっと疲れが押し寄せて大きく息を吐き出した。そして、見事な演奏で助けてくれた彼にお礼を言う。

「奏飛さん、ありがとうございました。でも……迷惑をかけてごめんなさい」
「いや、深春のせいじゃない。俺も早くに気づいてやれなくて悪かった」

 彼はいまだに強張った表情で謝るので、私は首を横に振った。

「ピアノ、本当にすごかったです。藤堂さんの悪口とか嫌味とか、全部どこかに吹っ飛ぶくらい感激しました」

 ちょっぴり茶化しつつも興奮気味に感想を伝えると、奏飛さんは私を一瞥し、わずかに眉を下げて微笑んだ。
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