孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 しかしそれは一瞬で、すぐにシリアスな面持ちに戻る。

「藤堂さんにあれこれ言われたんだな。昔から気に入らない人に対してはああやって攻撃してくるんだ。気にするなよ」
「はい。でも、普通にイラッとして言い返しちゃいました。自分はともかく、奏飛さんのことを悪く言われるの、すごく嫌だったから」

 先ほどの陰口を思い出すと腹が立つばかりで、無意識にぐっと手のひらを握る。

「……聞いたか? 俺の昔の話」

 問いかけられ、私は正直にこくりと頷いた。奏飛さんはやや申し訳なさそうにまつ毛を伏せる。

「悪い。隠していたわけじゃないんだが、自分のことを話すのは苦手で」
「いいんですよ。言葉にするのは自分で再確認することにもなるから、つらいですよね」

 いつもの力強さが感じられない、どこか儚げな瞳がこちらに向けられる。私は「話せる時が来るまで、いつまでも待ちます」と言い、微笑みかけた。

 きっとその時が、奏飛さんが心を許せるようになる最初の瞬間だと思うから。
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