孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 昨日約束した通りにやってきた香苗さんとリビングで旅行の話をしながら、私は頭の片隅でそんな風にしみじみ思っていた。

 香苗さんが旅行のお土産とは別に買ってきてくれた、1ピース千五百円もする高級ケーキをいただくのはかなり気が引けてしまったが、〝黒凪家妻の会〟はとても楽しい。

 これまでも時々会うと話はしていたものの、こうやってゆっくりお茶をする機会はなかった。彼女は本当に癒し系で優しいので、ひたすら安心して過ごせている。

「今度、深春さんも乗馬体験するのよね? ずっと肩身が狭かったから、女の子が一緒で嬉しい」

 香苗さんはふわりと微笑み、沢木さんが淹れてくれた紅茶を口に運ぶ。

 そう、今月末には上流階級の嗜みのひとつとして乗馬を習うことになっている。まさに英国の貴族といった感じだが、私は約一カ月前まで畑で汗を流していた女だ。さすがにハードルが高すぎる。

「乗馬なんて初めてなんで、不安しかありません……」
「私も全然やったことなかったけど、なんとなかったから大丈夫。コツを掴めば恐怖心もなくなっていくし、慣れると気持ちいいわよ」

 どんよりする私を、香苗さんは明るく励ましてくれた。
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