孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 夕方になり、身体の怠さと胃の不快感が増してきて自室で少し休ませてもらった。

 こういう時、家事をしてくれる人がいるのは本当にありがたい。鮫島家では体調が悪い時も我慢せざるを得なかったから。

 奏飛さんは会食の予定が入っていたので、私はスープだけ飲んで残りは明日の朝食にすることに。シャワーも浴びてさっぱりすると、奏飛さんが帰宅する十時頃には胃の気持ち悪さはマシになってきていた。

 ペットのように玄関に向かい、帰ってきた旦那様を迎える。

「おかえりなさい」
「ただいま」

 日常の穏やかな挨拶をして思う。好きな人に会える嬉しさや安堵が体調をよくさせるのかもしれないな、と。

 奏飛さんはバスルームへ向かう前に、出張の準備をし始める。明日は日帰りで金沢へ行くらしい。私はまだ少し怠い身体をソファに沈めて話しかける。

「明日は朝から日帰り出張なんて、忙しいですね」
「しょっちゅうだから慣れてるよ。慣れていないのは妻への土産を選ぶことくらいだ」
「私はなんでも喜びます。チョロい妻ですから」
「自分で言うのか」

 クスクスと笑い合い、奏飛さんが棚の引き出しを開ける。その瞬間、彼は笑うのも動くのもぴたりとやめ、次におもむろになにかを取り出した。

 その手に持たれたものは、今日歩くんからもらったチケットが入った封筒。
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