孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「こんにちは。今、お義母様と刺繍をしていたところなの。深春さんは?」
「私は少しお話をしたくて……。お邪魔してすみませんでした。もう済みましたので」
「じゃあ、一緒に帰りましょう。たまには少し歩いてみない?」

 そう提案する香苗さんに続き、お義母様も「そうそう、運動も適度にするのよ」と私にアドバイスする。断るわけにもいかず、最寄り駅まで歩くことになった。

 運転手を務めてくれた佛さんにお礼を言い、豪邸を後にした。まだ蒸し暑い閑静な住宅街をふたり並んで歩く。

 どうしよう、なにを話せばいいのか……。

 ぐるぐると考えを巡らせて沈黙する私に、明らかにいつもと様子が違って無表情の香苗さんが口を開く。

「深春さん、妊娠したの?」

 いきなり核心を突かれ、ぎくりとしつつ正直に頷く。

「……はい」
「何週目?」
「五週と六日だそうです」
「まだ本当に心臓が動き始めたばかりね」

 抑揚のない声で話す彼女は、太陽の位置がだいぶ低くなってきた空に視線を持ち上げる。

「神様って残酷ね。結婚して二カ月も経たないうちにできる人もいるのに、私には一年半経っても授けてくれないんだもの」

 彼女の口からこぼれた言葉にはっとする。
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