孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 いつになく憂悶とした空気を漂わせている彼が、まず口を開く。

「深春さん、具合はいかがですか?」
「大丈夫です。けど、どうして瑛司さんが……」
「香苗が動転した様子で私に電話をかけてきたので。彼女の話を聞いてやってもらえますか?」

 気遣うような優しい声色の彼の隣で、香苗さんは先ほどまでと打って変わって怯えたように俯いている。

 私が「もちろんです」と頷くと、彼女は泣きそうな顔で深く頭を下げた。

「深春さん、本当にごめんなさい……!」
「えっ、いや、謝らないでください! 香苗さんはなにも悪くないじゃないですか」
「いいえ、私にも責任があるわ」

 私が慌てて制するも、彼女はそう言い切った。私たちのやり取りを見て不審に思ったのか、奏飛さんが眉をひそめる。

「深春になにかしたのか?」

 威圧感を醸し出す彼に、香苗さんは目線を落としながらも語り始めた。

 自分が不妊治療をしていること。

 一緒に帰っている最中、妊娠がわかった私を憎らしく感じて、やり場のない気持ちをぶつけたこと。

 私が落ちる時、手を伸ばしたけれど間に合わなかったこと。

 それらを伏し目がちに話す香苗さんに、瑛司さんは黙って寄り添っている。きっと、待っている間に事情を聞いたのだろう。
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