孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「今回のことは事故ですが、そもそも私が歩こうと誘わなければこうはなりませんでした。私……深春さんに憤りをぶつけたかったんです。妊娠できないのは深春さんのせいなんかじゃないのに、八つ当たりして追い詰めました」

 香苗さんの顔がみるみる歪み、大きな瞳に涙が浮かぶ。

「こんな醜い私にも、深春さんは温かい言葉をくれたんです。もう、罪悪感でいっぱいで……本当にごめんなさい」

 彼女は幾度となく頭を下げ、病室内に沈黙が流れた。

 香苗さんの気持ちもわかるし、私は憎んだりなどしていない。それより、彼女がさらに自信をなくしてしまわないかが心配だ。

「……私、ブローチ渡す前に落っこちちゃいましたけど、ちゃんと拾えましたか?」

 これまでの流れをあえて遮り、ちょっぴり茶化して聞いてみると、香苗さんは呆気に取られた様子で顔を上げた。微笑む私を見て意味を悟ったのか、首を縦に振って涙交じりに答える。

「ええ。黒凪家の一員として、もう少し頑張ってみるわ」

 前向きな答えが返ってきてほっとした。階級の証を捨てなかったのは、瑛司さんの妻であることを諦めないという意思の表れだと思うから。

 硬い表情で耳を傾けていた奏飛さんは、一段落ついたところで私に目を向ける。
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