孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】

「今の話に嘘はないな？」
「はい」

　冷静に確認する彼に迷わず答えると、彼は納得したのか小さく頷いて香苗さんに向き直る。

「香苗さんの事情はわかった。同情はするが、深春にしたことは感心できない。今後、深春に嫌な思いをさせたり、お腹の子共々危険にさらすようなことがあれば、ただでは済まないと覚えておいてくれ」

　声にも表情にも厳しさを湛えた彼に、香苗さんは重々承知した様子で「はい」と答えた。そんな彼女を庇うように、瑛司さんが口を開く。

「香苗をここまで思い詰めさせたのは私の責任です。深春さんにも、兄さんにも迷惑をかけて申し訳ありませんでした」

　丁寧に一礼した彼からは、真摯な気持ちが伝わってきて上辺だけの謝罪ではないと感じた。彼は初めて心苦しそうな表情を露わにし、香苗さんに向き直る。

「君をもっと気遣えたはずなのに、つらい思いをさせて……不甲斐ない夫でごめん」

　瑛司さんが素直に謝った直後、香苗さんの瞳からぼろぼろと涙がこぼれた。

　ずっと不安だったのだろう。でも彼の態度を見れば、香苗さんを捨てる気なんてないとわかるし、彼女にも伝わっているはず。

　子供みたいに泣きじゃくる香苗さんと、頭を撫でる瑛司さんの姿からは、ふたりの絆が深まっていくのが目に見える気がした。