孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 だが、瑛司が上に行きたい理由はなんなのだろう。そういえばちゃんと聞いたことはなかったな。上を目指すのが当然の家だから。

「瑛司はどうしてアッパーになりたいんだ?」

 質問返しをすると、彼はぴくりと反応して迷いなく口を開く。

「香苗にいい暮らしをさせてやりたい、それだけです。周りからの目を気にせず生きていけるように」

 ……ああ、瑛司たちも階級に縛られているんだな。自分より香苗さんのほうを気にしているのは驚くが。

「瑛司は見かけによらず優しいよな」
「……妻限定です」

 眼鏡を押し上げてボソッと答える弟に、俺はクスッと笑いをこぼす。見合いからの結婚だったのに香苗さんを心から愛している彼は、少しだけ羨ましかった。


 やはり、瑛司たちのためにも一族の考えを変えたい。そう思っていた矢先、深春と出会った。

 初めて会った時から、他の人とは違うなにかを感じた。それは富裕層の女性にいないタイプだというだけでなく、家族から虐げられているのに、その瞳や心がとても綺麗だったから。

 決して温かな家庭で育ったわけではないのに、どうして俺みたいにひねくれずそんなに澄んでいるのか。彼女のしなやかさにも強く興味を引かれた。
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