孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 ──今思えば、あの時瑛司たちは単純に俺たちを心配していたのだろう。なのに俺は卑屈な考えしかできず、また自ら壁を作ってしまった。

 実力で社長の座までのし上がっても、黒凪家の長男だから当然だと言われたり、逆に黒凪の血を半分しか引いていない人間には相応しくないと言われたりする。

 父が俺を引き取ったのも、少しでも跡取りを残す確率を高めるための保険か、せめてもの罪滅ぼしかのどちらかで、愛情を与えられた覚えはない。

 理不尽な世界で生きているうちに、俺は誰にも心を許せなくなっていたのだ。

 そんな世界から一番遠いところにいた深春は、野良猫のように生きてきたとしても俺にとっては神聖で綺麗な存在。同時に自分と似ている部分もあるからこそ、きっと彼女は裏切らないと信じられた。

 一緒に暮らし始めて人並みの夫婦らしい生活をしていると、俺のほうが深春を必要としていることに気づく。

 深春に居場所を与えてやりたかったのに、俺にとっての癒やしの場所が彼女が待つ家になっていたし、階級を上げるために子作りを始めたはずが、ただ触れ合うのが心地よくて彼女を抱くようになっていた。
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