孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
「私もそれでよかったと思ってます。叔父たちを許したわけじゃないし、仲よくしたいわけでもないから。ただ、ちょっとだけ後ろめたい気持ちもあるんですよね。あんな人たちでも、私にとっては特別だったので」

 いくらひどい扱いを受けたとしても、十年以上一緒に暮らした人たちだ。情が湧いていたんだなと、今になって感じる。

 翼さんは私の背中をさすりながら優しく微笑む。

「憎んだっておかしくないのに、そうならないのは深春ちゃんの懐が広いからだよ。そういう人のほうが結果幸せを掴むし、周りの人も幸せにするんだと思う」

 彼女の言葉がじんわりと私の中に浸透して、身体だけでなく心までとても滑らかになっていくような気がした。

 私には新しい家族がいる。過去を振り返るのはほどほどにして、大好きな人との幸せを一番に考えて生きていこう。


 ひたすら気持ちのいい時間を過ごした私は、エルロンを出て最寄り駅に向かって歩く。

 だいたい車で送迎してもらうのだが、最近は運動がてらひとりで出かけているのだ。つわりがなくなった今、体重の増えすぎに気をつけなければいけない。

 なのに、頭の中では沢木さんと一緒に食べるスイーツを買って帰ろうか、なんて考えている。おしゃれな洋菓子店がたくさんあるから、つい誘惑に負けてしまう。
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