孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 鮫島家を後にした私たちは、黒凪さんの車を停めてあるという近くのパーキングに向かった。

 普段は運転手がつくことが多いが、今日は本来なら休みだったので自分ひとりで来たらしい。彼の車は黒光りする高級車で、傷ひとつなく新車のように綺麗だ。

 緊張しながらラグジュアリーな内装の助手席に乗り込み、運転席に座る彼を見やる。半ば勢いでついてきてしまったので、行く場所も目的もわからなくて落ち着かない。

「黒凪さん、これからどこへ行くんですか? お仕事は……」
「今日は鮫島さんの都合に合わせて来ただけだから、これで終わりだ。腹は減っているか?」
「いえ、あまり。もろきゅうをヤケ食いしていたので」

 正直に答えると、黒凪さんは「経済的なヤケ食いだな」とおかしそうに少し笑った。そして、車をゆっくり発進させながら言う。

「じゃあ、このまま行こう。君をシンデレラにしてくれるところへ」

 昔憧れた、かの有名な童話のお姫様の名前を出されると、なぜかいくつになっても胸がときめく。私がシンデレラにしてもらえるって、抽象的すぎて向かう場所は見当もつかないのだが。

 とりあえず、どこへ行くにしても今の自分の格好はよろしくない。
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